第6話「あなたはだあれ?」

スマトラの怪獣王子

ルデキングツヤクワガタ登場

 

 

 

 ルデキング、ルデキン、ルデェキング、ルデェキン、ルデキンス・・・。

 ルデキングにはいろいろな表記がある。店によって、本によって呼び名が違うのだ。

 なぜ、いろんな呼び名があるのか。

 学名のラテン語の表記が読みにくいからだ。

 私は「ルデキング」と呼んでいるが、理由はその呼び名が一番強そうに聞こえるからだ。「電気怪獣エレキング」「どくろ怪獣・怪獣王・レッドキング」「大空魔竜ガイキング」「とんでもヒーロームテキング」「甲虫王者ムシキング」「用心棒怪獣ブラックキング」「完璧超人の首領・ネプチューンキング」・・・・「スマトラの怪獣王子・ルデキング」。おお!!強そうだ!!

 

 本当は「グ」はつかないものと思われる。

 和名のもととなった学名の語尾にある「g」はたぶん発音しないのだろう。

 読みにくい外国語の名前を日本語に直すとき、往々にして間違った発音になることが多い。

 誰もが知っているスーパーカーの中のスーパーカー・ランボルギーニ・カウンタックも、イタリア人に「カウンタック」といっても通じないらしい。

 本当なら「クンタッシ」みたいな感じらしい。

 いや〜、当時の車業界の人たちがイタリア語読めなくて本当に良かった。

 

 「ランボルギーニ・クンタッシ」。ダメだ〜。遅そう・・・・。

 「ランボルギーニ・カウンタック」。うおおおおおおおおおお!!!

ドリュリュリュリュ!!「もらった!!」「けえーーっ!!」「ブッチぎりだぜ!!」「ハマの黒ヒョウ、おまえ!!」「ウワーッハッハッハッ!!どおでえ!」

うーーーん。速そう。凄そう。燃える。(くどいって・・。しかも「サーキットの狼」知らない人はなに書いてんのか意味分かんねえって・・。)

 

 プロレス界にもそういうのは多い。

 体勝負の世界だけに、頭脳労働・外国語は弱いらしい。

 ロシアの白熊・ニコリ・ボルコフは本当はニコライだ。(それくらい読めろよ!)

 

 リーン・ゴルト

 レネ・グレイ

 この二人は同一人物である。

 同じスペルの名前なのに、来日する団体が変わるたびに日本語の呼び名が変わる。しかも両方とも間違っているのだ。

 本当は「レーン・グーレッ」みたいな感じらしい。

 リングで自分の名前がコールされていても、自分だとしばらく気が付かなかったらしい。「いつ呼ばれるのかな〜」みたいな。

 彼は巨大な人間山脈・現代のガリバー旅行記・大巨人アンドレ・ザ・ジャイアントのタッグパートナーとして有名だ。

 新日本の暮れの大イベント・MSGタッグリーグ戦でも優勝している。

 

 しかし、レネ・グレイというと、みんなが思い出すイメージは、

「弱え〜」

である。

 

 強すぎるアンドレのハンデとして、弱すぎるグレイがパートナーとして付けられた、と、当時のプロレスファンの子供たちはみんな思っていた。

 「木村健吾とどっちが弱いか」。真剣に論じられたものだ。(論じねえって)

 

 リーン・ゴルト。レネ・グレイ。レーン・グーレッ。

 うーん。どれも弱そうだ。

 強いて言えば、レーン・グーレッが一番弱そうか。

 

 

 レネ・グレイとルデキング、どっちが弱いか。

 名前と見た目ではルデキングの方が圧倒的に強そうだが、たぶんレネ・グレイの方が強いのではないか。

 実はレネ・グレイは、あの「プロレスの神様」カール・ゴッチのパートナーとしてWWWF(現在のWWE)の世界タッグチャンピオンとして君臨していた時期があるのだ。MSGタッグ優勝といい、タッグのプロとしての実力・実績はあるといえる。(強すぎるゴッチのハンデとして付けられていた可能性も否定できないが・・・。)

 

 われらの怪獣王子・ルデキングは実績ゼロである。

 モー虫では1勝10敗。

 その1勝も相手の小さな国産ノコギリが、ルデキングよりもさらに早いスピードで逃げたことによるタナボタ勝利だ。

 しかもその時、ルデキングもほぼ同時に逃走行動に入っており、本当に勝ったといえるのか疑問の勝ち星なのだ。

 歴代ワーストマッチのひとつに数えられる、気が遠くなるような泥試合だった。

 初来日以来、まともに試合をしたことがないと言っていい。

 

 しかし、私がそんなルデキングが嫌いかと言われると、そうではない。

 

 ルデキングはかわいいと思う。長生きしてくれ、と思う。

 なぜか弱くても許せるのだ。

 

 その行動は可笑しい。

 入場は勇壮である。猛り狂い、アゴを振りたてながら、「どっからでも来い!!」みたいな感じである。

 動きもいい。キビキビしてキレがある。

 アゴの形も凶悪である。脚も太く、つめもゴツい。

 これで弱かったらどうかしている。

 

 ところが弱いのである。しかもすご〜〜〜〜く。

 相手が登場する。

 ルデキングは猛り狂いながらもさりげなく、相手の正面から少しずつ体をずらしていく。「よし、安全」となった瞬間、ダッシュで逃げ出すのだ。

 

 オイオイオイ!!頼む!!頼むよ!!肛門から力が抜けるのを感じる瞬間だ。

 しかもほぼ毎回この展開である。

 相手がなにであろうと関係ない。小さな国産ノコギリ相手でも全速力ダッシュで遁走する。

 恐ろしい男よ・・・・・。

 

 

 あまりの酷さに、第11回大会を前に、トレーニングを行った。

 負け癖が付いてしまった選手たちを再生させるべく、外国産も一部の選手に特訓を施すことにしたのだ。

 

 怪獣王子も特訓開始。

 さて、どうだったでしょう。

 

 なんと、効果は絶大だったのだ。

 最初は、逃げるばっかりだった。特訓もできない。

 そこで、彼のゼリー台に、標本を置くことにした。

 それを押しのけない限り、えさは食べることができない。

 

 ちなみに、スパーリングは、おもちゃ<標本<死体<弱い個体の順番で効果があるが、標本でも十分な効果がある。

 

 ルデキング、最初はえさが食べられなくて困っていたが、さすがに1日もたつと我慢も限界に来たらしい。

 標本のノコギリクワガタがゼリー台の下に落とされ、ルデちゃんが台の上に乗っていた。

 

 それを何回か繰り返すと・・・。

 

 「なんだ、こいつら、弱えじゃん。」と思ったらしい。標本をゼリー台の上に乗せると、すぐにやっつけるようになった。無抵抗の標本だ。ルデキングは当たり前だが勝ちまくった。

 

 私は見た。ルデキングの真の実力を。

 モー虫を見てくれているひと、この第6話をここまで読んでくれたひとはもうすでに「ルデキング=弱いクワガタ」というイメージが脳に焼き付いているだろう。

 

 すべてのルデキングとルデキングファン(全国で7人くらいか・・・?)のために言っておく。

 

 実はルデキングのポテンシャルは非常に高い。

 

 私とルデの特訓は凄まじい迫力で繰り広げられた。

 私は自分で言うのもなんだが、あのミヤマっちを外国産と互角に戦えるファイターに育てた名伯楽である。

 ミヤマっちはもちろん、同時期に特訓を行なったマンディやアルキデス、パリーオオクワを上回る迫力とやる気。

 「イケる!イケるぜ!!まるで別人だ!!スーパーサイヤ人化に成功だ!!」名伯楽の私は思った。

 

 標本を入れる。ルデキングは速攻で襲い掛かり、標本のアゴをたばねて挟み、激しく後方に投げ捨てる。

 

 ホーペイが得意とする、あの垂直投げ、バーチカル・スープレックスだ。

 スパン!!スパン!!スパーン!!と見事に、強烈に決まる。

 標本の胴体を挟む。そのまま持ち上げ、絞り上げる。

 

 バキバキバキバキバキッ!!凄まじい破壊音が響く。ブルブルブル・・・ビキビキビキ・・・空中で絞り上げながら、まるでセレちゃんのようにルデキングの体が震えている。

 力が入っているのだ。

 標本は破壊されていく。ほぼ真っ二つだ。

 

 ヒラタ以外の60〜70ミリ程度のクワガタ同士の戦いでは、まず相手の体を真っ二つに破壊してしまうような事故は起きない。

 

 しかし、ルデキングは私の目の前で、クワガタの標本を真っ二つに破壊した。

 

 やばい。これは強いや。眠れる獅子を起こしてしまったのではないか。

 

 2ちゃんの掲示板で(ルデキングに瓜二つの)「ワラストンツヤクワが同じくらいの大きさのスマトラヒラタを半殺しに」「ダイオウをも粉砕」みたいな書き込みを見たが、彼らは本当は強いのだ。

 この日、確信した。

 

 

 そして試合当日。

 1回戦の相手は「地獄の番犬」リノケロスだ。

 体格ではルデキングが勝る。

 「行けい!!ルデキングよ!!生まれ変わったお前の真の実力を見せるのじゃ!!」

 ルデキングを発進させる。

 

 ルデキング、リノケロスを発見。

 

 たったったったったったったった・・・・・・

 

 背を向けて走り去っていく・・・・・。

 

 「バカか貴様は!!あの特訓を思い出せ!!」

 

 つかまえて仕切りなおし、もう一度リングへ。

 

 見詰め合う両虫。

 

 たったったったったったったった・・・・・・(もちろんルデキングが去っていく音)

 

 って、オイ!!オイ!パーか貴様は!!!!(怒)

 

 泣きそうになりながらも、もう一度仕切りなおす。

 

 「行け!!お前は本当は凄く強いんだ!!出せ!!標本を真っ二つにする必殺のゴジラ・ブレスを!!」

 

 

 げええええええええっ!!で、出たあ!!

 

 ポタ・・・・・・。

 

 必殺の「死んだフリ落下」がああああああ!!

 

 私も死にました。そのときの私は目が白くなって、動きが止まって、冷たく唇をゆがめ、凄い怖い笑顔になっていたと思います。

 

 多忙な中、行なったあの特訓の日々はなんであったのか。

 練習で見せたあの破壊力、強さはなんだったのか。

 

 ルデキングにはまいった。マジか。ゆ、ゆるせん・・・・。ズッコけにも程がある・・・・。(怒)

 もうホントにまじで許せん!!(怒MAX)

 脱糞しそうなほどの脱力感を残して、私とルデの「明日のジョー」は終わった。

 

 その日はトーナメントはそこでやめ、すぐに寝た。なにもかもいやになったのだ。

 私は名伯楽ではないということがよく分かったのだ。

 

 

 

 

戻る

 

 

 

inserted by FC2 system