セレちゃん。我が家で最古参、来日外国人選手第1号で、初代モー虫。I・W・G・P王者、我が家の人気者である。
冬の間も活動し、2年目になるがまだまだ元気である。
ケースを開けると、必ずくわっとアゴを開いて斜め40度に立ち上がる。もちろん威嚇姿勢であって、まったくなついている訳なの
ではないが、「おーい」と両手を広げて歓迎しているようにも見える。
家でペットの話になると、私は「うちにはセレちゃんがいるだろう!!」という。家族は「だって、アレは言うことも聞かないし、
世話しても全然なつかないし、危ないし、××(某哺乳類)の方がかわいいよ!!」という。
私は「何を言う!!セレちゃんのつぶらな瞳を見ろ!!××の100万倍かわいいだろ!!それに、いつも両手を広げて歓迎ポーズ
をしているだろう!あんなになついているのに!!」という。
「あれはちがうよ!!おどかしているんだよ!!」うん、たしかにそうなんだけどね・・・・。
実際こいつは猛烈にかわいい。
昨年、ヨークベニマルの「夏コーナー」からやってきた彼は、ひとつの癖を持っていた。
ケースの中に、カマボコ型のエサ台が入っていたのだが、セレちゃんは仰向けになって、そのカマボコ型のエサ台を布団のように
して自分の上にかぶせ、顔だけ出して寝るのだ。寝ているときは必ずそのポーズ。人間のようである。
また、プライドも高い。去年の夏、彼がまだ敗北を知らなかったころ、彼の体に白ダニがわいた。
私は、彼をつかまえ、水道で水をかけながら歯ブラシをかけた。
セレちゃんは大激怒。最強の彼は、生まれてこの方、こんな目に遭わされた事はなかったのだろう。
つかまれて、持ち上げられてブラシを掛けられる。激しく抵抗するも空しく蹂躙される屈辱。
それは不敗の帝王・セレちゃんにとって、生涯初の決定的な敗北だった。
彼は怒りのあまり気絶、足を伸ばしてピクピクに・・・・・。「ああああ!!セレちゃんが死んだ!!」誰もが思った。
敗北の屈辱に耐え切れず、憤死する。おお、お前は気高い真のファイターよ!!
悲しみと、厳粛な感じというか尊敬というか、感心というか、不思議な気持ちの中で、セレちゃんの亡骸を、はなむけのゼリーに乗せ、
セレちゃんに詫びた。
「ごめんな・・・。ブラシがそんなにいやだったか・・・・。でもお前は最後まで凄えヤツだったぜ・・・。」
今思えば、水が気管に入っただけだったのかもしれない。
申し訳ない気持ちで何度かケースの中をのぞいていたら、40分ほど経ったころだったろうか、セレちゃんが復活、ゼリーを食って
いるではないか!!恐ろしい男よ!不死身の男・不死鳥のように地獄から生還。
宇宙戦艦ヤマトやジャンプ系の漫画を見ているような、変な気分。
以来、何事もなかったかのように元気に生活している。
去年の我が家のケースには、大型の国産ノコギリクワガタの無敵の帝王・クワガッタンがいた。彼はスマートな紳士で、雄々しく、ワイ
ンレッドに輝くボディはバトルに勝つたびに輝きを増していった。また、じいちゃんが送り込んできたじいちゃんカブ軍団には、ツノで虫篭
のフタをこじ開け、脱出する特技を持つ元気者「逃げカブ」や、巨体をほこるペットセンターからやってきた「でかカブ」、その他大勢、と
いったメンバーがいた。
無知だった私は、軽い気持ちで子供たちの前でセレちゃんを加えた「我が家一決定戦」を行った。
国産同士で相撲ルールだと、事故はまず起きない。国産同士は問題なかった。
そして、問題のセレちゃん登場。相手は我が家一の巨体を誇る「でかカブ」。
レディー・ゴー!!!
試合開始早々、セレちゃんの必殺・ギロチンバイスが火を噴く。
一発で引き抜かれ、宙に浮くでかカブ。ぷるぷるぷる・・・・・力が入ってふるえるセレちゃん。
「やばい」と思って止めに入る。が、凄い力で離れない!!でかカブの様子がおかしい。痙攣している。
無理にブレイクさせたが、遅かった・・・・・。すまぬ・・・・デカ・・・・。お前を遊びで死なせてしまった・・・・・。
子供たちもあぜん、大惨事に会場(うちだけどね)は一気に凍りついた。
当時幼稚園の長女、涙ぐみながら、「セレちゃん、嫌いになった・・・・。」
いや、セレちゃんは何も悪くないんだ・・・。悪いのは全部このわしじゃ・・・・。すまぬ・・・・。
セレベスのあごの先は、良く見ると細く鋭く尖り、鏃のようになっている。これがヤバい。
この戦いではコレが、デカの首の付け根と胸と胴の間のやわらかい部分に入ってしまい、致命傷を与えたのだ・・・。
外国産はヤバすぎる、同居はおろか、うっかりバトルもさせられないぞ・・・・。
外国産ヒラタの恐ろしさ、悪魔のような強さ、凶暴さ、けた違いのパワーを骨の髄まで思い知らされた。
小さいのに、スーパー売りなのにこの強さ。ちゃんとした昆虫ショップで売ってる馬鹿でかいやつなら一体どのくらい強いのか・・・。
戦慄が走るとはまさにこのこと。
あまりの結末に、「我が家一決定戦」はこの夏、1回きりで終わった。
今年のセレちゃんは、相手のレベルが上がったため、以前のような悪魔のような強さを見せることは少なくなった。
しかし、誰が相手でも常に自信満々、決してひるむことはない。持ち上げられても、投げられても敗北を認めず、再び挑んでいく。試合
終了は関係ないようだ。凡戦はない。常にアグレッシブに戦いに挑み、なんか楽しそうである。セレちゃんは戦いが好きなようだ。
私たちもセレちゃんが登場する試合では、相手が誰でも、自然とセレちゃんに声援を送る。「セレちゃんがんばれ!!セレちゃん、負け
るな!!」セレちゃんが負けるとガッカリする。「ああ〜〜〜〜〜!!セレちゃんが!!セレちゃんが負けちゃった!!」
先日、第4回モー虫。I・W・G・Pを行った。さらに強力に、巨大になった参加メンバーに、小さくて高齢のセレちゃんは不利が予想さ
れた。
1回戦の相手は、我が家史上最強の国産カブト・カブえもんだ。
彼は「カブえもん試練の十番勝負」で13勝3敗、3回大会準優勝のアトラスAや、恐怖のアルキデスをも秒殺している、伝説の男だ。
ツノを下げ、前足のフセツをたたんでしゅっしゅっとシャドーを行い、威嚇するカブえもん。
セレちゃんが行った。必殺中の必殺技・「ジェット=アッパー」を狙うカブえもんが鋭く差し込んできたツノの先を、ガチッとアゴの先
で挟み込む。
出た!!セレちゃんの新必殺技・サイクロン・メイルシュトロームだ!!
なんと、カブえもんのツノの先だけをロックしたまま、ひねりを加えながら一気に差し上げる荒業だ!!
これは凄い!!カブえもんは目にも止まらぬ早さで半回転、リングに叩き付けられる。
勝ち誇るセレちゃん。本当に嬉しそうに見える。
2回戦は、第2回大会の準決勝で激突し、苦杯をなめさせられた赤い野獣・セアカフタマタクワガタだ。
強気で鳴らした両者が真っ向激突する。第2回大会と同じように、お互いをガッチリとロックしあう。
どちらのパワーが上か?前回は体格で勝るセアカのパワーが上回り、セアカの必殺技・スクランブル・バイスが火を噴いた。
グワッ おお!!信じられん!!持ち上げられたのは赤い野獣の方だ!!
ギロチン・バイスだ!!期せずして巻き起こる拍手。リベンジ成功だ、
3回戦に進出したセレちゃんを待ち受けるのは、世界最強クワガタ、世界最強虫の名を欲しいままにする漆黒の暴風雨・パラワンだ。
こいつはマジで強い。同じヒラタながら、体格でもセレちゃんを大きく凌ぐ。
この戦いは、第4回大会一の名勝負となった。お互いの闘志・プライドが真っ向ぶつかり合い、凄まじい闘気が発散される。
パラワンの死神のカマ・デスシックルスラッシュがセレちゃんの体を大きくのけぞらせる。
普通のクワガタ・カブトなら、これで終わりだ。
突き上げられ、激しく大きくのけぞらされた時、相手との力の差を感じ、多くの場合撤退行動にうつる。
第2回チャンピオンのギラファ、第3回王者のホペイといった強者も例外ではない。凶暴無比のマンディブラリスやセアカですら。
しかし、セレちゃんはたじろがない。再び最強虫・パラワンに挑みかかり、挟みつけていく。
結局、準決勝進出はならなかった。しかし、セレちゃんは男の、いや、「魁!男塾」風に言うなら、男の中の男・漢(おとこ)の闘い
を我々に見せてくれた。
漢とはどうあるべきか。漢とはどう戦うべきか・・・・。
今度、クワガタ採集でツキノワクマと出会ったら、俺は闘うつもりだ。(あんまり大きくないやつなら、マジで。)
セレちゃんの戦い振りを見た今なら、勝てる気がする。(勝てねえって)