獣蔵博士のむしさんすきすき

第17話  「交尾バカ一代」

幻のトレロカモミロ・カブ1号 登場

 

 

 赤いトレロカモミロ・ブレーキの壊れた下半身・夜のならず者・交尾バカ一代・カブ1号。

 モー虫黎明期の、幻の強豪である。

 必殺技は、フラッシュ・ピストン・マッハ・交尾。

 

 均さんが彼を憶えていてくれたことに嬉しくなって、これを書いている。

 次々と新しい選手がやってくるので、ほんの一時しか活躍(?)しなかった彼の話は、永遠にUPされない可能性はかなりあった。

 (1号、よかったね。)

 

 

 のちに参戦し、「国産虫最強」の称号を得た「野生の生傷男」・カブ2号の最大の武器は、体格の良さだ。体の力がある外国産虫や、ドルクスと戦うにはある程度のパワーは不可欠。カブえもんやカブ次郎、じいちゃんカブ1号、ちびキングらと比べ、カブ2号の本戦での戦績がいいのは、他のカブを圧倒する体格を有しているからだ。

 

 まぼろしの戦士・カブ1号の体格は、そのカブ2号をもしのぐ。昨年我が家に来た国産カブで、最も逞しい体躯をしていたのが彼だった。

 その体格だ。弱いわけがない。

 

 おそるべきパワー、スピード、スタミナ。その上、執拗さ、残虐性も文句なし。

 狙った相手は逃がさない。決してあきらめることはない。徹底的な追撃。非情極まりないその技。

 国産虫でありながら、そのポテンシャルと精神力は外国産虫よりもあきらかに上。

 

 ケース内での戦闘では、すさまじいツノによる連続突きで、ケースかどの壁面に、浮き上がった状態で相手を磔にし、メッタ突き。

 浮いたまま突き上げられる相手は、角先で何度も上下動させられ空中浮遊、さながら麻原彰晃状態。

 もがきながらキィキィと悲鳴を上げる。

 その必殺の技・名付けて カブトどあほう春団治・マシンガン・シャクティパット!(なんでも名付けんなって・・・。)

 

 

 強い・・・・・・・。

 強すぎる・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・性欲が。

 

 選手紹介でも似たようなことを書いたが、カブ1号の個性とは、「性欲の強さ」、それに尽きる。

 彼の恵まれた体格、おそるべきパワー、スピード、スタミナ。その上、執拗さ、残虐性。

 狙った相手は逃がさない執念。決してあきらめることはない精神力。徹底的な追撃。非情極まりないその技、が発揮されるのは、「対めす」で、交尾を迫るとき、に限定される。

 

 インターメディアが可愛く見えるほど執拗にメスに迫り続け、あまりのしつこさに音を上げためすが交尾を拒否すると、ツノで滅多打ち。前述のような光景が繰り広げられることになる。

 

 相性が悪いのかと、めすを代えても同じ。

 同種の他の国産カブトと比べても、明らかにタチが悪い。

 キィキィと鳴きながら逃げ惑うめすを、鬼と化したカブ1号が責める。

 非情。ビースト。DVキング。

 

 それを見て「なんてひどい男!」とカッとなった妻が、めすを救出、プラスティックの定規で、メスに代わって「エイ!エイ!」と反撃。カブ1号をメッタ突き。チンコを半分出したまま、こんどはカブ1号がキイキイいわされる。

 めすにかわっておしおきよ。

 

 妻からの苦情数、ぶっちぎりのナンバー1。

 四六時中そんなことばかりやっている彼を見ると、反射的にカッとなるらしい。「ひどい男」「最低の男」「許せないタイプ」だそうで、彼のおかげで「カブトムシ」全体の評価まで著しく下がってしまった。

 

 

 

 英雄、色を好む。

 さて、彼の戦いぶりはどうであろうか。

 

 第2回大会、第3回、第4回大会のレポートを見てくださっているみなさまは先刻御承知だと思うが、これがサッパリなのだ。

 

 ♪トレロカモミロ男の中の男だけど トレロカモミロとても好き者 戦いよりも 交尾が好き オレ!オレ!オレ!

 

 強いとか、弱いとかいう次元ではない。まったく戦いには興味がないのだ。

 リングに上がった瞬間から、ウロウロ帰り道を探し始める。目の前の相手には一瞥もくれず、やる気ゼロ。

 たまに出会い頭に目があっても、そのまま素通りだ。

 

 ウロウロあっちへ行きこっちへ行きしているうちに、相手に捕まってしまい、抱え上げられて惨敗。

 その体格、パワー、残虐性、全くの宝の持ち腐れ。

 マジでひどい。最低試合連発。

 

 

 特に第3回大会の1回戦、対ホーペイは最悪だった。

 まだ私も、バトルのノウハウがない状態だったので、ハブラシ誘導を行なわなかったせいもあり、お互いただひたすらウロウロするばかりで、果てしない時間だけが過ぎていく・・・という悲惨な試合。

 

 しかも、VTR撮影をしていたので、「二匹のウロウロ散歩シーン」でテープがどんどん消費されていく展開にさすがの私もイライラがつのるばかり。いいかげんにしろ。

 最後は小さなエサ台に両者を乗せ、いやでも顔が合うようにしたところ、ホーペイが急に目覚め、グラビトン・ハンマーでカブ1号を軽やかにKO。

 第4回大会の1回戦、対マンディブラリス戦でも全くやる気なく、帰り道を探してウロウロするカブ1号。

 ついちょっと前まで、素晴らしい動きでメスをキイキイ言わせていたのに、だ。

 

 

 

 ルデキングにすらやさしいこの私も、カブ1号には我慢ならん。

 交尾は張り切ってするのに、バトルは全くしない。

気持ちいいことだけはいっぱいしたい。厳しいことは一切したくない。

戦いに勝ってメスを得る。でもボクは戦わずにアレだけしていたい。

 

そのちゃっかりぶりが男として許せん!!

 おめこ一筋。ありあまる体力とパワーはそれにしか使わない。

 

 

 案の定、ウロウロしているうちにマンディのブラッディ・ハマーにつかまって、高々と抱え上げられ、絞り上げられる。

 おまえ、もういい。もう出なくていい!!

 

 その抜群の身体の良さに期待を掛けていたが、話にならん。

 しょっぱすぎる。実在のレスラーの誰かに例えようと思ったが、ひどすぎて思い浮かばないほどだ。

 強制引退。カブ1号のキャリアはここで終わる。

 

 

 本戦レポートでも書いたが、仕事もせず、ブラブラしてエロビデオ鑑賞ばかりに熱心な親戚のおじさんが交通事故に遭うのを見たような、そんな感覚。しょうがないな、というか、ほほえましいというか・・・・。

 

 

 

 VTR撮影中は腹が立ったが、カブ1号の人間臭さには「生き物の可愛さ」を感じないでもない。

 我々もまた、性欲に支配されている部分は大きいからだ。

 

 どうでもいい話へ(リンク。暇なひとはどうぞ。)

 

 

バカ話、書いてもいいよ、という雰囲気だったので、嬉しくなってたくさん書いてしまった。

満足したので、そろそろカブ話に戻る。

 

カブ1号、強制引退させられたが、本人的には全く困らない。屈辱でもない。ラッキー、みたいな。スッキリ、みたいな。

しかし。働かざるもの食うべからず。

戦わなくていい。その代わり、交尾もナシね。私は彼に通告した。

カブ1号は一人部屋になった。

 

それは応えたらしい。

あんなに元気だったカブ1号は、引退してすぐに死んでしまう。

「もうやるだけやった。満足じゃ。めすもいないんじゃ、もはやこの世に未練なし。さよなら。」

そう思ったか。

 

そうではないように思う。

異様に早い死の原因は「やりすぎ」だろう。しかし、彼はまだやり足りなかったようだ。

 

最期の日。

カブ1号、まず、前脚がまひした。

ついで頭。

中脚。

面白いことに、後ろ脚とおしりだけは最後まで元気で、しばらくはそれでケースの中を進んでいた。

元気すぎる下半身。

 

最後までソレか。きちんと最後までキャラクターを立てるか。

おまえは可笑しいやつだった。

 

おまえが本気で戦ったら、どのくらい強かったのか。今は知るすべもない。

おめこ一筋。これくらい徹底すれば、私にも文句はない。私の負けだ。

 

おまえはモー虫に大きな遺産を残した。

 

「カブはだめ」という意識を、私の家族に強烈に刷り込んで去って行ったおまえ。それは負の遺産だ。

おまえのせいで、その後の歴代カブたちはつらい仕打ちと低い評価を受け続けるハメに。

あんなにかわいい、ケンちゃんも、ヘラちゃんも「同じカブ」ということで、同じ扱いだ。

 

「カブ、だめだねえ・・・・。」4歳児にすらそんなことをつぶやかれる。

その言葉を聞くたびに、私はお前のことを思い出すのだ。

 

 

 

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