第9回大会
準決勝第一試合
ネグロスの長距離カノン砲・インターメディアツヤクワガタ
VS
フローレンスの不沈艦・ギラファノコギリクワガタ
赤い霊柩車・じいちゃんカブ。甲虫番長・セアカっち。
破壊獣・アトラスA。 黒船・コーカサス短角。
甲虫空母・ホーペイ。 まだら狼・ワラストン。
昆虫戦車・アトラスB。 暴君竜・コーカサス長角。
インターメディアのいたAブロックには、こいつらがいた。
いずれ劣らぬ強豪・古豪ぞろい。
大会二連覇中のインターを止めるため、ストップ・ザ・インターメディアを旗印に、このブロックには意図的に強豪を集中させた。
しかし。
彼らの挑戦を退けて、生き残ったのはカノン砲・インターメディアであった。
どこまで連勝記録を伸ばすのか。
モー虫の中では、強すぎる虫。
モー虫ファイトの「ゾウカブVSコーカサス」のテキストで、私は子供時代、強い怪獣が好きだったと書いた。しかしその後、よく考えてみると、成長とともに私の嗜好は変化していったのだということに気付いた。
小学校の高学年頃あたりから、好みの傾向がだいぶひねくれてきていたように思う。
「強すぎるもの」に反発を感じるようになっていったように思う。
Gr.5やGr.4のレースで、圧倒的に強く、漫画「サーキットの狼」でも圧倒的に強く、「スーパーカークイズ」でも圧倒的に強かったポルシェ。
マジンガーZより圧倒的に強く、操縦する剣鉄也は大人で、苦戦や涙が似合わないハードマシーン・グレートマジンガー。
「一撃必殺」「地上最強」を標榜し、「他の空手、他の格闘技はカス」的なイメージを振りまいていた某空手流派。
長島・王を擁し、日本人の8割がファン、野球漫画の主人公は必ずそこに所属、の読売巨人軍。
どう考えてもこれは現時点での猪木より強い(当時)、としか思えない若い頃の前田日明。
セメントなら最強、野生児B・ロジャースを控え室で半殺し、ショーマン精神皆無の「プロレスの神様」K・ゴッチ。
そのどれもが好きでなかった。(今はどれも好きだが。)
スーパーカーならフェラーリ・デイトナやマセラッティ・ボーラがいい。
グレートマジンガーより、機械獣ダブラスM2やガラダK7がかっこいい。
野球なら、「ライオン丸」シピンや「マリオ」ポンセ、「オバQ」田代、スーパーカートリオ、左門豊作の大洋ホエールズがいい。
野球漫画なら、主人公が巨人軍ではなく、登場人物全員が異常変態(特に敵キャラ)で濃いキャラばかりの、アストロ球団がいい。
プロレスラーならゴッチよりも流星仮面・M・スーパースターや狼酋長ワフー・マクダニエルがいい。
日本人レスラーなら、前田日明よりキラー・カーンやタイガー戸口、マサ・齋藤がいい。
巨人軍の選手なら、クレイジー・ライトや「扇風機」トマソンがいい。
アラアラ・・・変な趣味ね〜。変わり者ね〜。みたいな。
今でもそんな傾向はある。
世間的に認められやすいものに背を向け、「アホだな〜」と思われることに燃える。
クワガタ、カブトの好みにもそれに近いものがある。
私を見ていると、「博士は大型のヒラタに冷たいの〜」と思うひとも多いと思う。
今シーズンは、本戦無差別級はおろか、ミドル級すらほとんどトーナメントを行なわず、ライト級あたりに凝っていた。
ライト級は弱い。はっきりいって弱い。
大型ヒラタやホーちゃんとやらせれば、プチッといかれてしまうだろう。
職場に訪れる子供に聞いてみても、興味があるのは大型種のみで、小さいやつはどんなに美しくても人気は薄い。
私はティティウスやニジイロ、メリーちゃんやアスタコ、ミヤマやローゼンちゃんが好きである。
ケンタウルスやヒルスも好きだ。ラフェルトやアロエウスも好きだ。
たよりないやつら、である。
使えなさ、もなぜか可愛さの一要素に感じてしまう。
彼らは顔も目も、愛くるしく、かわいい。
強いもの、圧倒的な実力があるもの、に対しては「オレが愛さなくても他のみんなが愛してくれるだろう」と思うのかもしれない。
「勝者には何もやるな」という言葉があるが、それに近い感覚だ。
インターに対しても、そんな感覚は常にあった。
みんなの報告によれば、インターメディアにもピンからキリまであるようだ。
敗戦の痛手から立ち直れず、ヘタレ化してしまう個体、買ったのはいいが最初から戦う気がない個体もいるらしい。
しかし、私の中のインターメディアのイメージは、最初から最後まで「極めて好戦的、かつ執拗な、生まれながらの戦士」であった。
晩年でも闘志を失うことなく、最後まで極めて勇敢、かつ執拗なヤツであった。
率直に言えば、この9回大会の頃の私は、インターメディアを好きではなかった。
あまりに強すぎて、トーナメントの「誰が勝つか分からない」楽しみをスポイルする存在のように感じていたのだ。
そして、さらに悪役イメージを強くするのは、その顔つきである。
上から見ると、極めて目つきが悪い。
目が、丸くないのだ。
メフィラス星人や、黄金バットのナゾーのような邪悪な目。
つり目で、薄笑いを浮かべているような、残忍で酷薄そうな目だ。
「ケケケケケケケケ・・・・・。泣け!!わめけ!!許しを請え!!悲鳴。なんて素晴らしい音色だ・・・・。」とか言いそうだ。
その無敵の王者・残虐なる殺戮兵器・インターメディアを、ハイパー化したギラファっちが迎え撃つ。
ハイパー化していない状態での初代ギラファでは、インターメディアに対抗することは難しい。
しかし、ハイパー化したギラファ、ターボ作動状態のギラファなら、互角に戦うことができる。
どちらに勝利の女神は微笑むか。
似た体型の両雄の、個性のカラーは、実は、鮮やかに違う。
極めつけの個性VS個性の対決。
表ですよ |
インターメディア |
ギラファ |
戦闘スタイル |
しつこい・えげつない |
短期決戦・テクニカル |
心のスタミナ |
高いレベルで長時間持続する。 |
勢いがあるうちはいいが、持続しない。 |
身体能力 |
高い。顎力はヒラタ並み。 |
並。挟む力は弱いが、テクニックでカバー。 |
防御力 |
打たれ強い。背筋力は弱点。 |
先制攻撃には極めて弱い。 |
安定感 |
抜群。いつでもイケイケ |
ハイパー化したときだけ圧倒的に強い |
技能・知能 |
なんでもあり、滅茶苦茶な攻撃。知能は低い。 |
多彩、効果的、抜群のテクニック。知能は高い。 |
人気・価格 |
人気なし。安い。 |
人気抜群。高い。 |
顔 |
恐い。凶悪、かつ酷薄そう。 |
かわいい。やさしそう。 |
おお!!すべてに正反対だ。
似ているのは「でかい」「つのが長い」「細い」「第一内歯がエグい」といった外見的な部分のみ。
「種」として見れば異論はあると思うが、これがモー虫のインター、初代ギラファ、といった個体の個性であった。
(「人気なし」と書いたが、モー虫ではみんなが買っているところを見ると人気あるのかな。行きつけのショップ店長いわく「人気ないんで入れても売れないんだよね〜」とのこと・・・。)
昭和のプロレスラーにたとえるのであれば、
インターは「地獄の墓堀人」「鋼鉄風車」ローラン・ボック(すごく強い、ナチュラルに強い身体、技はエグい、陰険、相手に怪我させる、人望ゼロ、ホモ、引退後は刑務所)か。
ギラファは「超人」「ハリウッド」ハルク・ホーガン(人気抜群、明るいキャラ、格闘技のバックボーンはなし、ボディビルとステロイドで作った身体、スーパースター、いいやつ、奥さん美人、セミリタイア後はリビング・レジェンドに。)か。
共通点は外見的な部分、「ハゲ」だけ。みたいな。
さあ、長い長い雑談はここまでにして、本題に入ろう。
勝利を重ね、ハイパー化したギラファが荒れ狂う。
興奮状態で、インターをスタンバイさせようとする私の手の動きにも激しく反応して、移動を繰り返す。
さすがに、この状態でいきなり目の前にインターを置いたのでは、ギラファに有利すぎる。
ギラファから離れた、目の届かない場所にインターを置く。
今の両者の状態なら、この後、ハブラシで誘導すればいい。
いきなり襲われる不利は解消され、「お!?来たな!」と、インターメディアも心の準備をすることができる。
敵が、このリングのどこかに出現したことを敏感に感じ取る不沈艦。
はるかかなたのインターメディアがいる方向に正確に向き直り、触覚を激しく動かす。
インターメディアもまた、臨戦態勢に入る。
戦うために進化した甲虫のオスたち。
そんな彼らでも、先制攻撃を受けると、戦意喪失し、身もフタもなく逃げ回り、全く試合にならなくなるケースは少なくない。
特に冬場、シーズンオフになると、温室の中にいるドルクスすら、そんな姿を見せることもある。
しかし、インターメディアは、生涯を通じて、一度もそんな姿を見せることはなかった。
襲撃されれば、喜んで迎撃をはじめる虫であった。
その姿は、今思えば美しい。
ギラファの突進で戦いは始まった。
切り株のリングの断面部にひそむインターメディアを見つけ出し、得意のギャラクティカ・エキスプレスをお見舞いする。
その突進に呼応して、インターメディアも勇躍する。
前回を上回る激しさでインターメディアに迫るギラファ。
しかし、甲虫王・パラワンを一撃で葬った甲虫特急も、インターを葬るには至らない。
インターの身体の下に長いアゴを差し入れ、脚をたばねてしまいたい所だが、お互いの位置関係から、ギラファのアゴはインターをとらえるには至らず、お互いのアゴでの剣戟が始まる。
こりゃ失敗した・・・・。
長時間戦闘になる予感。心のスタミナに欠けるギラファが、突然戦意喪失する姿が頭をよぎる。
激しいつばぜり合いは、やや体格に優るインターメディアが押し始める。
必殺の甲虫特急をお見舞いしようとするギラファだが・・・。
王者インターメディアと初代ギラファっちでは、アゴの力、脚の力といった身体能力では、インターの方が高い能力を持っていると思われる。
ハイパー化したギラファをも、押し返していく長距離カノン砲。
リング中央で、正面から向かい合う形になる両者。
お互いに決定打はない。押し気味のインターメディアも、ギラファの長いアゴにはばまれて、ギラファのボディをとらえることができずにいた。
この大会まで、ほぼ無敵の強さを見せてきたインターメディア。
しかし、彼にも決定的な弱点がある。
この大会にいたるまでに、インターが喫したただふたつの敗北。
それは、破壊獣・アトラスAの必殺技・「最後の晩餐」ゴルゴダ・クロスによってもたらされた。
激しい両者のつばぜり合い。すげえ!!
スタンディング状態での甲虫十字架刑。
攻める姿勢が腰高なインターメディアは、その罠にスッポリとはまりこんだのだ。
その攻撃姿勢の高さゆえに、大型のヒラタや大型のカブトムシ相手には不利が生じる。
そのために、同等以上の体格のヒラタやカブトムシが多数参戦する市販ビデオでは目立った活躍をすることができないのだ。
特にヒラタは低い体勢で攻めてくることが多く、インターにとっては極めて苦手な相手であると思われる。
さらに、ツヤクワガタであるインターメディアは、背筋力に欠ける。
MKOCで、ヒラタ相手に頭が抜けそうになったり、モー虫でワラストンがミヤマに「く」の字にされて苦戦したりした場面。
ツヤは背筋のパワーに欠けるのだ。
そのふたつの弱点。
インターメディア攻略の糸口はそこにあった。
じれたカノン砲が、ギラファっちの上からかぶせるように襲い掛かる。
一瞬、ギラファのボディをとらえることに成功するインターメディア。
アゴの力でははるかにインターが上だ。決まったか!?
と、思う間もなく、ギラファは、大アゴをふりあげ、下からインターメディアを跳ね上げる。
その動きを背筋力で押さえ込むことができず、「く」の字に曲がったインターメディアは浮き上がってしまう。
そのインターメディアの脚を束ねることに成功したギラファっちは、そのままリングから引き剥がすことに成功。
「これしかない」という必殺フルコースにはまり込んだ王者インターは、場外に轟沈。
だいぶ後のことになるが、最晩年のセレちゃんに、明らかに格下のローゼンちゃんに、インターが不覚を取った時があった。
それは、このギラファ戦と全く同じシチュエーションでの番狂わせであった。
リングの下のほうで、腰高に相手に迫り、上からかぶせるように襲い掛かるとき。
その3つの条件がそろうとき、インター攻略の糸口が見える。
うわ〜!!押してたのに!3連覇の夢が〜!!
リングの上の方であれば、着地して反撃することができるし、無尽蔵の心のスタミナがあるインターにとってはさほど不利にはならない。
しかし、リング下方で、地面に背中を向けた体勢では、そのまま場外に落ちてしまい、一発で決まってしまう。
その上、床が身体の近くにあるとき、インターメディアは、その床の面すらも足場と考える性質があるように思える。産卵木の樹皮のみを「戦場」と考えるのではなく、床面までもが彼にとっては「戦場」であり、そこに手足を付けたり、移動してしまったりすることに対する抵抗が薄い。
これは勇敢なツヤクワガタ全般に言えることだが、「なんでもあり」で「深い考えなし」で「他種のクワガタとは戦いのルール自体が違う」彼らは、リング下に落ちても負けを認めず、試合終了後も襲い掛かってくる。
それはたぶん、彼らにとって、場外に降りてしまうことは「負け」ではないからなのだ。
床面が身体の近くにあるときにはがされそうになると、インターメディアは床面をも足場にしようと模索しはじめる。
その時、彼らには隙が生まれるのだ。
セレちゃん、ローゼンちゃんに金星を進呈してしまったときも、このパターンであった。
ギラファっち、決勝進出!!
全盛期に突入した不沈艦が、もはや負ける事はないかのように見えた無敵の王者・インターを撃破。
ターボさえかかれば、オレ様に恐いものはない。
ギラファとインターが死んでから、ずいぶんと経つ。
晩年のインターに対して私は、この第9回大会の頃とは全く違った印象をもっていた。
おまえほど素晴らしい虫はいない。
相手がなんであろうと、常に全力で戦う姿勢。
無尽蔵のファイティング・スピリット。
豪快かつ痛烈なフィニッシュ・ブロー。
その残忍さ、好戦性、過剰さ、えげつなさは戦士としては美徳なのだ。
黒豹のようにしなやかで、速く、危険。
丈夫で飼い易く、長生き。
フセツ切れやダニとも無縁。マットもあまり汚さない。
「大きいから強くて当たり前」と思っていたが、インターをそのまま小さくしたようなダールマン・セレベス亜種を見て驚いた。
こんなに小さくて細いダールマンがこんなに強いのか・・・・。インターが強いわけだ。と。
その強さは、ただデカいからだけではないのだ。と。
凶悪で邪悪で、酷薄そうな目をしている、と書いたが、実はそうではない。
上から見ると恐ろしい人相だが、それは誤解なのだ。
インターの目には、外骨格の目をガードするエッジが横断している。
ギラファは、そのエッジが目の途中までしか伸びていないため、「大きくて丸い目」という印象を与えるが、インターの目はエッジで分断されているため、吊り上がった目が、四つあるように見える。
しかし、その目は、実は大きな丸い二つの目なのだ。
よ〜く斜め下から見てみると、本当は「まゆげがある大きな丸い目」の持ち主だったことに気が付く。
今回は不覚をとったが、インターメディアが弱くなったわけではない。
復活したギラファ、暴君竜コーカサスといった歯応えのある敵が現れたことは彼にとっては喜びだろう。
この敗北は終わりではない。
弱いヤツばかりのリングは、オレに言わせればつまらねえ。
こうこなくっちゃあ面白くねえぜ。
インターメディアならそう言うだろう。
身体能力、賢さ、身体の太さからくるパワーでインターの上を行くヒラタクワガタやオオクワガタに対し、インターメディアが明らかに優っていることがある。
それは勇敢さだ。
相手が恐ろしく強ければ、ドルクスはその賢さゆえに撤退を選ぶ。
相手がどんなに強大でも、インターメディアは立ち向かっていく。
今は思うのだ。
お前こそがモー虫の、ベストオブ・バトル甲虫であったと。